グレーゾーン論議(金融庁金融懇談会とマスコミについて)

最近の金融庁の金融懇談会や、それを報ずるマスコミの論調は感情だけで金融の論理を理解していない幼稚な議論となっている。
幼稚な感情論は、一般消費者へは分かり易いので困ったものだが、金融の本質から幼稚に書いてみよう。

●金融は、そのときはないお金で、将来を享受することにある。
1.住宅ローン:お金を貯める代わりに、先に住宅を取得して住める
2.設備投資:儲けた中から貯める代わりに、儲けを産む設備を先に取得する
3.消費者ローン:そのときないが、先に消費なり旅行なりをしたいクレジット機能。
           そのときは病気などで生活費が足りないが、病気が治ったら正常な生活をしたい
4.運転資金:そのときは運転資金に困っているが、事業が正常になったらうまく回る
5.赤字国債:財政の収支が一時的にマイナスなので、将来の財政の余剰金を見込んで資金を調達する

●という、そのときにお金がないが、将来を先取りするために金融機能があるのだ。
したがって、よく返済余力を見て貸すと言うが、そのときは返済余力はないのだ。
赤字国債を考えたら分かるが、将来財政収支がプラスになる「目処」があるから金融機能は成り立つのだ。

●消費者金融は、多重債務者を作っているとか、破産を作っているとか悪者扱いされているが、確率論としてそうなる人を見込まないで、100%多重債務にならない、または破産しない人に貸そうとすると、健全な借り入れ者にも貸せないという、銀行の個人ローンになるでしょう。
企業向け融資でも、倒産する会社は、金融機関が貸したからそうなったのだと、マスコミや懇談会は言いたいらしい。
中小企業向けローンも今回の議論ですから。

●それではマスコミの言っている、消費者金融貸出し先は全て多重債務または破産者になると想定しましょう。
消費者金融会社は成り立たないですね。回収できないのですから。

●そこで、消費者金融会社は、多重債務による焦げ付きや破産によって回収不能になる「確率」を計算して貸しているのです。
当然そうなる確率の高い人には高い利率で(例えば10%が回収不能になるとすると10%は貸し倒れ損出分として必要になる)低い人には低い利率でとなる。貸し倒れや多重債務になる確率が高い人は、督促業務などの経費もそうでない人に較べて余分にかかるので、相当高い利率でないと貸せないことになる。10%の貸し倒れの人に貸し出す金利(R)は、10%(貸し倒れコスト)+α%(経費率)以上になるが、この経費率は企業努力だろうし、貸し倒れ率も同じ人に貸しても取り立ての方法で変わってくる。
 ただし、この取立てについては、違法なことで貸し倒れを低下させないような規制は必要になる。
 金融庁は、このような規制を、「金融商品の中身」にまで適用しようとしているのだ。
 利率(R)は、貸し倒れ率+経費率で決まってくるのに、上限金利を低く抑えるということは、それでは貸せない人が出るのは当然だろう。

●一方、この利率(R)決定のもう一方の経費削減努力に大きな要素となるのが、IT活用なのだが、金融懇談会では「利便性の提供が過剰融資を生んでいる一因」と決め付けている。
 例えば、返済の利便性には、ネットバンクからの即時金額指定返済が出来れば、うっかり忘れていてもすぐに返済できるので、利用者も便利だし、業者も安いコストで済むのだが、今はネットを利用して返済をしても、返済後の残高など記した「文書」を郵送することが義務付けられている。
 クレジットカードのリボや、証券会社の書類など、利用者から事前の同意を得ていれば、電子文書で済むので、ネットを利用した低コスト構造が出来上がり、ネット証券などの動きに繋がっている。

 このような、コスト削減のための新しい手段を封じていることは、利用者にとっては金利に反映することや、利便性を損なうので、不利になる。まして上限金利規制が入れば、借りられなくなる人も多くなる。

●現在消費者金融の貸し倒れは会社によって異なるが、大手は大体年間5%くらいだろう。
残り95%は健全な借り入れなのだ。この95%の人は例えそのときに病気になって、生活が苦しくても、そのときを乗り切って健康を取り戻したら、正常になるような人なのです。
このときに金融が機能しないと破産することになるのですが、95%の人がその可能性があるのですね。

●次の話題となるのは、法改正によって採算が合わなくなって借りられなくなった人が、破産に至らしめた法改正をした国の責任を追求する訴訟を専門にする弁護士が現れるだろう。今過払い金返還請求(訴訟ではないので、費用と手間は掛からない)で成功報酬(20%以上なので、ちょっとした金額ですぐ100万円くらいの弁護士収入になっている)を得ているので、次の収入源となろう。

●マスコミや金融懇談会は残り5%の実際に多重債務や破産する人に焦点を当てているので、どうしても「消費者金融は悪」という論調になるのですが、実際には「銀行もどこも貸してくれなくて途方に暮れているときに貸してもらって、お陰で破産しないで今はしっかり元の生活ができています」という人が95%なのです。

●国債発行は国の借金ですから、国=消費者と考えたら、国債が発行出来なければどうなったでしょうか。破産はしませんが、金がないので景気浮揚策も何もできなかったでしょう。
でも赤字国債が国を滅ぼす元凶だから発行しない方が良かったという論理もあります。
もし国が破産するとか、返済のために税金を大幅に上げたりしたら、国債を買った人が国を滅ぼしたとマスコミは言うのでしょうね。

●金融商品の内容については自由競争で、その運用上野放しにすると社会問題化する恐れのある項目については、法で縛ることが良いと思うが、どうも一部で確かにある、違法な請求業務などにかこつけて、金利やIT活用手段という金融商品の中身をごった煮にして規制しようという、頭の中が整理されていない消費者側に立っていると「本人達」だけが称している消費者代表が消費者に不利な規制を作ろうとしている。

●2006.9.6後藤田政務官が辞任した。この人の言う法改正をしていたら、破産が渦巻いて社会問題になったでしょう。
法改正が後藤田政務官通りになったら、そのときに責任をとって辞任することになったでしょうから、どちらにしても辞任するのは本人もなかなか分かっていらっしゃるということですね。
もっとも今まで、法改正や政策の失敗で責任をとった人はいないという無責任法改正筋書きですが。

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